先輩の活躍

「食」を通じて人生を豊かにする
日常の暮らしに密着した
調理師を目指して

特別養護老人ホーム みどりの郷

平成23年5月新卒入職

栄養課
リーダー

佐藤 夏奈 さん Kana Sato

「食は一生のつきものだから」
母の一言で心を決めた調理の道

高校時代は、その年頃の女子が興味を持つものに私も夢中になっていました。コスメ、ファッション、美容…。勿論、好きを仕事にするということも一時は考えたりして、服飾デザインの道を本気で模索したりしたこともありましたが、やはり仕事となるとちょっと違うのかなと思い、進路として考えることはありませんでした。

いよいよ高校卒業を控えて進路を真剣に考える頃、私は将来どんな職業に就くかとか、何を仕事にしたいかという事が自分の中に全くなくて、困り果ててある日母に相談しました。すると母は、
「そうね、例えば『食』は生きていく中で一生のつきものだから、調理の勉強でもしてみたら?」
と、それとなく助言されました。母は本当に「それとなく」助言してくれたんですが、それが不思議と私の中にストンと落ちたんですよね。母の助言通り、確かに「食」は生きる上で一生ついてくるものなので、毎日の「食」を豊かにするということは、人の人生そのものを豊かにすることにつながると思ったんです。姉が調理師の資格を持っていたこともあって、自分も調理師の資格を取ろうと決心し、地元の調理師を養成する専門学校へ入学しました。

あれだけ将来について考えても何も決められないでいたのに、今の自分があるのはあの時の母の助言があってのことなんです。本当に、母には感謝です。

専門学校時代は1年コースだったので、それはもうあっという間でした。
入学式が終わりようやく一段落して、学校に馴染んだか馴染まないかの頃、確か6月位には先生から「就職先、どこ行きたいか決めとけよー」と。「エッー!?まだ学校入学して2か月なんですけどー!」って。(笑)
どこ行くか決めとけと言われても、その頃は材料の下処理の仕方とか、包丁の研ぎ方とかを学び終えたばかりで。コース料理もまだだし、集団調理もまだだし、実習もまだだし、調理らしい調理は何もやっていない頃です。就職先どこ行きたいか決めとけと言われても、本当にどうしたらいいのか、って感じでした。求人票の見方すらまだおぼつかない感じでしたからね。 (笑)

やりたかったことは
「普段の食事」
日常の暮らしに密着した
調理師を目指して

就職は大きく分けて、レストラン系、ホテル・旅館系、集団調理系がありました。割烹料理店や老舗旅館の調理場で実際に働いている方の動画を学校で観たのですが、入社して10年目でも皿洗いや食器選びが仕事のメインになっていて、食材の下処理を含めて包丁に触れる仕事がまだ一つも行えていませんでした。「包丁を持って、野菜の下処理をさせてもらえるのに、一体何年かかるんだろう・・・」「調理をさせてもらえるようになるには何年かかるんだろう・・・」と、本当に厳しい世界で、多分自分には耐えられない世界であることはその動画の時点ですぐわかりました。和食に限らず、レストランやホテル、旅館系もそれに近い職場環境だということは先生や先輩職員からも聞いていました。その厳しい環境に気持ちが引き気味になったのは事実なのですが、それだけではない、自分がやりたい調理とはちょっと違うなという違和感というか、何か目指している世界の違いのようなものを感じたんです。その中で、集団調理はどうなのかな?と、集団調理の方に目が向き始めました。

そんな折、実際に集団調理で働いている先輩が学校に来て、仕事の内容とか遣り甲斐について色々とお話を聞かせて下さる機会がいいタイミングでありました。その話を聞いて、私は自分に一番合っているのは集団調理だなと思いました。一番の理由は、「普段の食事を提供する仕事」であるという点です。

レストランやホテル・旅館は、その世界を極め洗練された「作品」を提供し、日常とは違う時間や空間でもってお客様に感動を届ける仕事。一方、集団調理は、毎日の3度の食事やおやつなど、私たちがいつも口にするものを調理して提供する仕事。同じ調理でも、それぞれに違った役割があると思うんです。

元々、私が調理の世界を志したきっかけも「食は一生ついてくる」という母の一言に後押しされた部分があって、私が目指す調理は、特別なものではなくて、私たちの日常の中にいつもある「食」の方。その日常の「食」を通じて、人の人生を豊かにするお手伝いが出来たら…という思いが根底にありました。だから、普段の暮らしに密着して、食べる喜びを提供していくような仕事がしたかったんです。

集団調理で働いている先輩の話を聞いて「自分がやりたかったことはこれじゃん!!」と思いました。見つかったー!という感じでした。(笑)
早速先生に「集団調理の方向で進めたい」という気持ちを伝え、実習先を調整してもらいました。

お客様に丁寧
仕事に真摯
みどりの郷が大好きに

その実習で来たのが、湖星会のみどりの郷だったんです。
みどりの郷の先輩職員はとても丁寧に仕事を教えて下さって、2週間の実習の間に色々なことを経験させて下さいました。厨房内の仕事だけではなく、調理した食事を各ユニットに配膳する業務も一緒に入らせて頂き、自分たちが調理した食事をお客様に直接届ける経験もしました。

ダイニングテーブルで食事が出てくるのを待っているお客様の前で、おかずのお皿をご覧頂きながらその日の献立を説明するのですが、食べてもらう方の顔を見れることで、また調理する意欲が湧いてくるんです。自分達が調理した食事をここにらっしゃるお客様に召し上がって頂くんだという喜びと、今、目の前に居るお客様みんなに幸せで居て頂きたいと願う気持ち。「食」を通じて、お客様の人生を少しでも豊かにするお手伝いができるのなら、私はこれを生涯の仕事にしていきたいと思いました。

みどりの郷では配膳の際、調理のユニフォームの上にカーディガンなどを1枚羽織って厨房前の廊下から出発するのですが、それはお客様の「暮らしの空間=ご自宅」に、私たちが仕事着であるユニフォーム姿のまま入って行く事で、ここを「施設」と感じさせてしまう事の無い様にという配慮からです。私たちにとっては職場であっても、みどりの郷はお客様にとってはご自宅、「我が家」なのです。

配膳した食事を1品1品お客様にご覧頂きながら説明をする際も、複数のテーブルに分かれてお客様が座っていらっしゃれば、すべてのテーブルで1品1品の説明をします。こんな風に、お客様との関わり方ひとつ挙げてみても、すごく丁寧なんです。とてもお客様を大切にされている。施設によっては「ご入所者」とか「利用者さん」と呼ぶところもありますけれど、ここは「お客様」と言う。細かいですけど、そういったちょっとしたところからも、お客様や仕事に対する向き合い方が、すごくいいなと思いました。
2週間という限られた期間でしたけど、この様な実習の体験から、私はすっかりみどりの郷に惚れ込んでしまい、思いがどんどん膨らんで、出来る事ならここみどりの郷に就職したいと思いました。

お客様それぞれの
「懐かしい味」を求めて

調理そのものが好きなので、すべての仕事が毎日楽しいです。
みどりの郷は、長期入所が80名、短期入所が20名定員の施設なので、検食分を含めて毎食100食以上の調理をしています。食形態も常食から刻み、ソフト、ペーストなど様々です。
その中でも、やどうやったら見た目的にも美味しい食事が提供できるか、どうしたら常食に近い見た目と味で提供できるのか、それを研究して形にしていくのがとても楽しいんです。実際に食事を召し上がるお客様ご本人やご家族様から「これまで普段はどんな食事を召し上しがっていたか」を伺い多くの情報を集めながら、今のみどりの郷のお客様、年齢層的には80代~90代の方が本当に食べたいものを提供していきたいと思っています。

加齢とともに食欲が減退して食が細くなり、なかなか食べられなくなってくるお客様に、何とか少しでも食べてもらおうとあの手この手で試行錯誤するのですが、なかなかお食事の摂取量が上がらない・・・そういったケースは少なくありません。
時とともに、この施設をご利用になるお客様の平均介護度もどんどん上がってきています。自然の流れとしてみれば当然のことですよね。

食事には、食べやすさ、飲み込みやすさ、見た目の美しさ、香り、味、食事の時の雰囲気や環境の他に、その料理とともにその方それぞれの思い出として記憶されている「懐かしさ」というものがあると思うんです。見た目や味の工夫で試行錯誤を繰り返してもなかなかうまくいかない時、私はそのお客様がこれまで歩んで来られた人生をもう一度、ずーっと遡って確認するんです。お客様にとっての「懐かしい味」を探るために。もちろん、長く入居されている方ばかりではありませんから、手元の情報だけではわからない時はご家族から情報を頂いたりもします。お客様が昔好んでいたもの、夢中になっていたこと、普段の生活、色々な情報を集めて、その中からヒントを手繰り寄せます。少しでもお客様の食欲に繋がればと願いながら、その方にとっての「懐かしい味」の再現にチャレンジします。

そんな中でお食事を提供し「あー、懐かしいわ」と、一口、また一口と、その味を噛みしめる様にして召し上がって下さった時は、言葉では表現できない位の嬉しさ、達成感があります。地道な試行錯誤を繰り返してのチャレンジですが、やって本当に良かった!と心から思う瞬間です。

お客様の変化に寄り添いながら
一緒に歳を重ね
私は成長する

早いもので、私も入職8年目になりますが、私がここに入職した時に常食に近い食事を召し上がっていたお客様も、8年の月日が経ち、年齢とともに徐々にADL(日常生活動作)も下がって、食形態も食の嗜好も変化してきています。

それぞれの食形態や嗜好に応じて、お一人おひとりその方に合った食事を提供する様に務めているのですが、少しずつ、本当に少しずつ変化していくお客様にそっと寄り添いながら、お客様個々の「食歴」を8年間見つめてきました。長く勤めれば勤めるほど、こういったお客様の「食歴」情報は自分の中に蓄積されて厚みを増す訳ですから、その分、個々に行き届いた食の提案もどんどん可能になります。これが出来る様になってくると、調理師としてまた一つ仕事の幅が広がって、仕事の面白さや遣り甲斐に一層の深みが増してくるんです。

入職して間もない頃は、行事食やイベント食、施設内で運営しているカフェの仕事が華やかで楽しくて、そっちの方にばかり興味が向いていた時期もあったのですが、毎日お客様と接し、関わり、向き合う中で、命をつないでいくための「食」がいかに大事か、その中での食べられる喜びだったり、食べる楽しみだったり、そういった食の原点みたいなところと向き合い続ける奥深さは、介護施設の調理師だからこそ見ることができると思うんです。

「食は一生のつきものだから」という、私が調理の道に進むきっかけとなった母の言葉が、あの頃とはまた違った響きで、今も私の中に生きています。一生のつきものだからこそ、諦めたくないし、こだわりたい。美味しくて、楽しくて、身体と仲良くできるものであって欲しい。お客様にとって1日でも長く「一生のつきもの」であり続けて欲しいと願う気持ちで、メニュー開発にあたっています。

これまでの8年間を振り返ってみると、お客様から課題を与えられ、それをクリアするために自分なりに調べたり、情報を集めたり、お客様からヒントを頂いたりして、難題な課題にも一つずつ丁寧に向き合ってきました。諦めず、丁寧に、真摯に。それが「みどりの郷」だから。私が学生時代に実習で初めてここを訪れて、大好きになった「みどりの郷らしさ」そのものだから。私が最も大切にしたい部分なんです。だから、一つのチャレンジが実を結んだ時は、それはもう仲間と一緒にその喜びに目一杯浸ります(笑)。大盛り上がりして、仕事への活力を得て、だからまた次の課題にチャレンジできるんだと思います。

こうして、一つひとつ課題にチャレンジし、達成することを重ねる中で、次にまた同じ課題に出会ったとしても、私たちはそれを何度か経験したことで、過去の経験を生かしながら何の躓きもなく上手にクリアできるようになっている。こんなことを日々の仕事を通じて感じた時に、着実に成長できていることを実感します。
お客様と一緒に経験して、歳を重ねて、わたしは成長させてもらっているんだなと感じます。

お客様へ最高の食事を届けて
ご家族様へ安心を届ける
栄養課としての新たな挑戦

たまたま先日、私が一人暮らしを始めるため実家の部屋の整理をしていたら、曾祖母の写真がひょっこり出てきました。すごく懐かしかった。「ちい」という名前だったので、いつも私たち家族は「ちいばあちゃん、ちいばあちゃん」と呼んでいました。

私がまだ学生だった頃、曾祖母は地元の介護施設に入所していました。曾祖母が大好きだった私は母と一緒によく面会に出かけていたのですが、面会を終えて帰宅すると「あー、ちいばあちゃん今頃何しているかな」「ごはんちゃんと食べれているかな?」とか、曾祖母の様子を心配したり案じたりすることが結構ありました。特に曾祖母は食の好みがはっきりしていて、自分の好みの味付けじゃないとあまり箸が進まなかったので、「ちいばあちゃん、ちゃんと食べているのかな?」と、そんな心配を母とよくしたものでした。

私たち家族は、施設で普段どんな食事が提供されているのか、実際の食事を見る機会は殆どなく、どんなものが出されていて、どんな味付けなのか全くわかりませんでした。そもそも、食事の時間は職員さんがみんな忙しそうに動き回っているので、その時間帯に面会に行くのは施設に失礼だと思い、気を遣ってその時間帯を避けて面会に行っていましたので、食事自体見た事もありませんでした。
見えないところでの不安、情報が少ない、把握していない、わからないが故の心配だったと思います。

今、私はみどりの郷で調理師として働いていますが、お客様のご家族だって、きっとあの頃の私たちと同じ様に、施設に託している自分の親や祖父母が「環境に馴染めているか」「みんなに優しくしてもらえているか」「迷惑かけて職員さん困らせてないか」「ちゃんと食事を食べられているか」とか、そんな風に心配だったり案じたりしているのではないかと思うんです。これまではお客様の方だけを見つめて仕事をしてきましたが、今度はそれに加えて「ご家族に安心を届ける」という事にも挑戦したくなったんです。

栄養課として、ご家族に食の部分での安心をお届けするために何ができるか・・・。栄養課のみんなと話し合いました。ご家族に情報を提供し、把握する機会を設け、見えるようにし、わかるようにすれば、それはきっとご家族への安心につながるのではないか、そう思ったんです。

例えば、サービス担当者会議を開催する時には可能な限りご家族にも参加して頂いていますが、その機会を利用してご家族様に、お客様に普段召し上がって頂いている実際のお食事をご試食して頂きながらお食事の説明をするのはどうだろう…。よりわかりやすく情報は伝わり、把握でき、見えて、わかることで、これがご家族へ安心を届ける一つの材料になるのではないかと思いました。そこで、私たちは実際にお客様に提供している普段のお食事をご家族にご試食して頂く機会を設けようと、早速施設長に相談しました。施設長は「これはご家族様の安心につながる。サービス担当者会議でご家族がいらしている時なら、あえて試食のために足を運んで頂く訳ではないので負担にならないし、それは確かにいいアイディアだ。それ早速やろうよ!」と、すぐにOKを出してくれました。私たちは着々と準備を進めて、先日初めてご家族様向けの試食会を実施致しました。

左が常食、右がソフト食、メニューは手前から右回りで麻婆茄子丼、餃子、ナムル、杏仁豆腐。

ご試食下さったご家族様からは沢山のご感想やご意見をいただきました。

「病院食と違って、形や味覚など、食欲が増すと思います。」

「ソフト食はどうしても茶色っぽい見た目になりがちなので、ここに少しグリーンを入れるともっと見た目がきれいになるのでは?」

「施設は薄味と思い込んでいたけれど、どれもしっかり味がついていて美味しい。」

「ラーメンのチャーシューは、食べやすく一口位のサイズに最初からカットして出した方がいいのでは?」

こうして、ご家族の生の声を聞けることが本当にありがたかったですし「安心しました」とか、「ここに親を託して良かったです」と言って頂けた時は、すごく嬉しかったです。
ご家族からのアドバイスをお客様に提供する食事に反映しながら、これからもこの取り組みは継続していく予定でいます。

休日は友人と外出して
思い切りリフレッシュ!

休みの日は、友人と過ごすことが多いです。ディズニーランドへ行ったり、バーベキューなんかも良く行きます。
最近だと、実家を出て一人暮らしをはじめたので、家に集合することも多くなりました。美味しいものを持ち寄って、ゲームで盛り上がったりして、みんな我が家みたいにくつろいでますよ(笑)。
中学時代からの親友4人組なので、多分この関係はおばあちゃんになるまで続くんだろうと思います。本当に仲が良いので、このまま行ったら、みんな同じ老人ホームに入る勢いですね(笑)。それぐらい仲良しです。

応募を検討している学生の皆さんへ

湖星会の魅力は、やはり「お客様お一人おひとりにとってのベスト」を追求させてもらえることと、どの職種であろうと職員全員がお客様の方を向いて仕事をしていること、そしてお客様のためになることを積極的にチャレンジできるという点です。

コスト意識を持ちながらも、コスト最優先ではない。だから、ちゃんと理由があって、お客様にこうしたいという思いがあれば、それが優先される環境です。食材をどこから仕入れるか、何を仕入れるかなど、予算と裁量を与えられた中で自分達で決めていけるのも、遣り甲斐の一つにつながっています。

栄養課においては「栄養士だから」とか「調理師だから」という変な線引きをすることなく、栄養課が一体となってどうしたらお客様に喜んで頂けるか、美味しく食事を召し上がって頂けるか、みんなで考え、意見を出し合い、スタッフそれぞれが得意とする部分を生かしながら、日々仕事に取り組んでいます。

最初の一年はとにかく時間の流れに沿って仕事を覚え、それに慣らしていくことの連続ですが、3年、5年と仕事を続ける中で、仕事の面白さ、チャレンジしたいこと、仕事の遣り甲斐がどんどん出てくると思います。
「食」でお客様の人生を豊かにする仕事、私たちと一緒にやりませんか?
皆さんのお越しをお待ちしております。実習も施設見学も大歓迎です!

Profile

二本松市出身。日本調理技術専門学校 卒。平成23年5月入職。みどりの郷栄養課に配属となる。
平成27年6月、栄養課リーダーへ昇格。栄養課の中核として課全体のマネジメントを担い、みどりの郷100名のお客様の食生活を支えている。スタッフの多彩な能力と持ち味を上手く融合し、施設行事やイベント食提供日には目にも鮮やかな本格的な料理の数々を披露してくれる一方で、普段の食事をいかに美味しく提供するか、そのこだわりで右に出る者は居ない。多様な食形態一つひとつに丁寧に向き合い、地道な研究開発にも果敢にチャレンジする「食」のプロフェッショナル。最近のマイブームは、行事食をいかにインスタ映えするように写真に撮れるか!だとか?!